上映作品が決まるまで

「映画祭と私」

よしだしほ

KAWASAKI しんゆり映画祭で上映する映画は、映画祭市民スタッフによるプログラム委員会で決定され、市民ボランティア・スタッフが市民プロデューサーになり、各々の作品上映やそれにともなうイベントの企画立案、宣伝を担っている。映画祭の主な活動期間は4月〜10月。映画祭オフの間、スタッフは主婦や学生や社会人の本業にいそしみ、疲れを癒し、ここぞとばかりに映画を観る。今年のプログラムの始動は例年より早く、3月末から始まった。プログラムの会議は、平日の夕方からのことが多い。一日の仕事を終えた帰りのOLや、学校帰りの大学生、子ども連れでやってくる人もいる。そして「こんな映画良かったよね」という話が元になって、最初はまったくラフな感じで上映作品のリストアップがはじまる。

しかし、そこから問題は山積み。特集上映されることでもない限り、公開から5年ほどで洋画は配給権を失い、上映できないのだと市民プロデューサーになった4年前はじめて知る。今年は、オーストラリアの映画特集企画の目玉だと誰もが思った「プリシラ」が、そんな理由で姿を消した。無念である。オーストラリアの広大な大地をピンクのバスで横断する、あのシーンをマイカルの大画面でもう一度観られると考えただけで、みなわくわくしたものだったから、上映できないとわかった日は、一日ボーっとしてしまった。

名画座は、あまりにも膨大な名画のなかでテーマに合致したものを選び出すのに一苦労。今年のテーマは「わくわく、ドキドキ」。しかしどう考えても「わくわく、ドキドキ」とはズレる映画でも、上映したいものはしたいのだ!メンバーが何人かいればその数だけ、観たい映画はそれぞれ違う。好きな映画を連呼するに終始するもの、人に宝物を壊されたくないとばかりに黙り込むもの、その場の雰囲気で気持ちも変わる、会議は踊る。会議が終わってから「結局何がなんだか、もうわからなくなってきたぁー」と叫んだのは、わたし一人だけではない。そんななかで、ルルーシュの「男と女」は、みんなそろって大好きな映画だった。配給権がないとわかってがっかりしていたら、ワーナー・ホーム・ビデオさんから「DVD上映をしてみませんか?」とのお話がある。試写をする。アヌーク・エーメのアップが画面いっぱいにひろがって美しい。過去と現在を自在に行き来する物語、音楽にあわせて流れるような画面、今観ても古びることのないファッション。当時観た人だけじゃなく、若い人に観てもらいたい映画である。

ニューウェーブ・ジャパンは邦画の新しい潮流を、自分たちなりに見出そうとする試み。今年はメンバーが少なくて、候補作品を観るのも大変だった。しかし、チーフは孤軍奮闘。ご飯代もすべて映画とDVDに費やされたんじゃなかろうか、と心配なぐらいたくさん映画を観てくれた。アジアンストリームは、シネコンではなかなか上映されないアジア映画をスクリーンで観てもらう企画だ。「酔っぱらった馬の時間」は、ユーロスペースで上映されていたが見逃し、関内アカデミーまで、乗り物を4回乗り換えて観に行った。泣いた。劇場を出て関内の駅につくまでずっと泣いた。しかし、決してお涙頂戴の映画ではない。乾いて、時にユーモラスなほどだ。「わすれな歌」は、ひとりが観て、「オモシロイっ!“歌う転落物語”だよー!」とのメール。数珠つなぎにみんなで観た。タイの国、アジアのおおらかさを感じさせ、日本では失われつつある、素朴な叙情溢れる佳作だ。この映画こそ、映画でアジアを知ってもらいたいというわたしたちのコンセプトに一番近い作品だった。

新作の試写に行って、これはと思う映画に遭遇しても、6、7月公開の作品は10月のわが映画祭に貸し出してもらえることはまずない。春に公開を済ませた映画は、秋にはビデオやDVD化がはじまっている。果たしてお客さんはビデオを観るより、劇場に足を運んでくれるのか?さまざまな葛藤のなかで、とにかく映画やビデオをこれでもかと観る毎日。なかでも白鳥委員長は、プログラム・ディレクターとして委員会で選ばれたすべての作品を観るので、その本数たるや膨大なものになる。

渋谷のミニシアターめぐりの最中に、仲間をみつける。夜中に飛び交うメールは、大好きな映画を語る楽しさに長くなる。恋をする映画は、遠い昔の思い出を語らせ、笑いに溢れる映画は、困難な一日を喜びに変える。興業的にはコケたとされる映画を「よっしゃ!別の切り口でお客を呼んでみせる!」と息まいてみたりもする。

専門的な知識が豊富で、強力なイニシアチブをとるプロデューサーによる映画祭では、いち早く海外の新作が観られたり、世界を飛び回って名画中の名画を捜し出してくるようにみえる。そんなことはわたしたちにはできそうにもない。予算もない。それでもうなだれないで、来年も再来年も10年後もガンバロウと思うのは、ひとえに映画が人と人を結びつけるこの映画祭を愛し、“しんゆり”ならではだと思うラインナップを模索したいからだ。

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