若松映画は危険の香り 三浦規成 野外上映で共に日本酒を販売した同志・山名が、このシネマウマエッセイで書いた、『エンドロールは桜桃の味』で「人生でのがした最大の好機」を読み、私も筆を取ることを決意しました。私の場合、好機だったのかどうかはわかりませんが、それは、大学3年の時に訪れました。
上映会で大赤字を出した私とある女性部員は財布に千円札が2〜3枚しかない状態で街に飲みにでました。当時金のない時に飲みに出るといえば池袋の「清龍」という居酒屋チェーン店でした。 その日は上映会が終わった高揚感で二人とも非常にハイな気分になり、普通の男女なら「ラブホテルに行こう」とでもなるのでしょうが、我々の場合はマッコイ・ターナーの「フライ・ウィズ・ザ・ウインドウ」を論じながら「公園に行って空を飛ぼう」ということに衆議一決しました。そして千鳥足で近くの公園にいったのですが、勿論空を飛べるはずがありません。ブラブラしていたとき見えたのがブランコでした。 危険(チャンス)は私だけにやってきたわけではありません。上映会を一緒にやった女友達にもやってきました。 数日後、自宅にいた彼女のもとに1本の電話がかかってきました。受話器をとると相手はいきなり言いました。 「京都からきたものですがお会いできないでしょうか。若松監督の上映会に行った者なのですが」 あまり深く考えず新宿のジャズ喫茶行った彼女に相手は言いました。 「よければ、アラブに一緒に行きませんか」 瞬間目の前を火花が散ったような気がしたと彼女は言います。相手のいう意味がすぐにわかったからです。しかし、当時の彼女にはその覚悟も思想もありませんでした。すぐに辞退し帰ったといいます。 それから四半世紀。あの時「行きます」と答えていたらどうなっていたのでしょうか。 あの時以来、私も山名さんと同じように余生を送っています。 |
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