ゲスト:今村昌平監督、清水美砂氏(女優)、猿皮直人氏(日活常務取締役)
司会進行:千葉茂樹氏、野々川千恵子氏
武重 それでは改めてゲストの方をご紹介申し上げます。監督の今村昌平さんです。(拍手) 千葉 まあさっそくですけど、この映画ですね非常に今村作品の中では、ユニークなものだと思うんですけど、まずこの映画を取り上げると言うきっかけは、原作があるわけですけれど、どんないきさつで、この映画を撮ろうと言うことに思われたんですか? 今村 最初はね、えー、なんて人だっけ原作者?(観客笑) 千葉 辺見庸さん。 今村 その前に『くずきり』と言う短編を読んだんです。これ、ばかに面白くてね。 千葉 ああそうですか。それでそのあと『赤い橋の下のぬるい水』を読まれて脚色にそれが加わっていくと? 今村 そう言うことです。 千葉 で、面白いと思ったって言うんだけれど、どこが面白いと監督は思ったんですか? 今村 えーとね、女性の主人公のなんて言いますかね、水の出し具合ですね。(観客笑) 千葉 脚色の話で聞かせてほしいのは、あの舞台は原作だと首都圏のどこかの港と言うことになっているんですね、それが、なぜか富山に持っていったと言うところは、いかがですか、富山にどうしてもこだわったのはなんですか? 今村 脚本の中に、汽水と言うことが、出てきますね。汽水と言うのは、純粋な水と海水が入り混じっているような状態が、汽水が流れてくると言うことになるんですね。で、それは、隅田川では成就できませんので、氷見と言うところですね、氷見と言うのは、富山の中にあるなかなかいいとこですけれどもね、そこで出会って、まあロケハンしながら、いくつかの場所を見て歩きながらですね、魚が、当時はね、当時と言うのはロケハンの頃はね、ハゼがどんどんあがっていました。ハゼでもあるし、時としては海の方からブリもあがってくると言うような場所でありまして、これは、旨いと言う風に思いまして、でそのような海水が見えて、手前にはハゼが踊っているようなそう言う川の水も見えて両方見えると言うようななかなか汽水と言うものをうまく表現できるかできないかと言うものは、勝負でありまして、で、この場所でなんとかしたいと言う風に思ったわけです。
今村 彼女が実はね、水の持ち主だって言うこと(笑)にするのは、なかなか困難でありまして、そんなことは誰も知りませんしね、だからアメリカにいると言う彼女のご亭主にね、聞いてみるわけにもいかないし、ちょっと聞きたかったんですけれどね、そうもいかないので、それは隠密裏に済ませてしまいました。(笑) 千葉 色々な意味でタイミングがよかったんですけれど、監督にもう一度聞きますけれど、清水さんがお腹に赤ちゃんができていると言うのを知っててキャスティングしたんですか。それとも、途中で・・・・ 今村 そのあとね、あとで知りました。 千葉 あーそうですか。それで、知った時はどう思ったんですか? 今村 「しめた」と思いましたね。(笑) 千葉 この辺が、普通の監督だとやめると言う風に思うけれど、これは僕もですね、まあ結婚して子供を生む時の女性に出会っていますけれど、やっぱり、とってもきれいな時が、あるんですよね。それを監督が、「しめた」って思ったって言う風に思ったと言うのは、やっぱりさすがだなと思いましたね。やっぱり生命って言うのが、お腹にいるとそう言う女性を取り上げているって言うのが、「なかなかすごいんじゃないかな」って言う風に思いました。
清水 そうですね、「水」を出す女性ですから、で、自分の中にも「水」があるわけですね。で、監督の疑問にされていた、私が「水」を出すって言うのは、全くそれはないんですけれど、でも、お腹の中に「水」があるって思った時にどこか繋がりがね、生命との繋がりとか、あの心地よさ、あの男性が心地よく感じるのも、赤ちゃんもきっと心地いいんだろうなとか、そう言うこう不思議な気持ちになりましたね。なんか本当に今回。「さえ子」って女性は、妊娠していてはいけないわけなんですけれど、妊娠していて、役作りのうえでも良かったなと思います。 野々川 監督は「しめた」って言う風に思われたそうですが、実際にやってみて、やっぱり「しめた」でしたでしょうか。 今村 そうでした。大成功だと思いますよ。 千葉 あの、もう一つついでにですね、『うなぎ』も同じお二人ですよね。そうすると実際現場で、『うなぎ』の演技指導と言うか演技のつけ方ですね。それと今回の場合のお二人に対する演技の要求と言うんですか、だいぶ違ったんでしょうか? 今村 そうですね、違ったと言えば違っているんですけどね。んー、注文したね、一回だけね。 清水 はい。 今村 ね。えー、なんかね、しゃくった物言いをするんですね。セリフの・・・。しゃくるなってことだけは言いました。えー、それは演歌を歌う時みたいなしゃくり方であって、それは、面白くないと。「だから、僕がさえ子って言う女性に要求したいのは、うーん、反省しない人、反省しない女であって、あとは非常に攻撃的でありたいと」と言う風に言った覚えがあります。ええ。
今村 思いましたよ。
野々川 清水さんのなかで、よく女優さん、俳優さんは、その役と自分の隔たりとか、あるいは一致点を見つけ出していくとか、まあ色々なタイプの方がいらっしゃると思うんですが、今回の役はどうだったんでしょうか?自分と重ね合わせたところでは?反省しない女と言うか・・・? 清水 あの、ハイハイ。そう言う部分非常に分かるような気がします。あの『水』は別ですけれど、あの内面的なあっけらかんとした明るさ、その中に潜めているこう強さみたいなものとか、きっと私の中にもあるって信じていましたから、逆に引き出してもらって本当に良かったなと思います。 野々川 監督、せっかくですから、監督の女性観について伺いたいんですが、あの、まあこの作品もそうですけれども、さっき反省しない女とか、これまでの作品の中で、あの『豚と軍艦』にしてもそれから『赤い殺意』にしてもあの非常にたくましかったり、母性が強かったりエーと、男の人は騙されちゃうけれども女は騙してないような騙したようなと言うような女性を描いていらっしゃいますけれども、監督が理想とする女性と言うのはどう言う女性なんでしょうか? 今村 えー、「水」がたくさん出る人と言いたいんだけれど、(笑)そう簡単にはいかないね。 野々川 ずーっと作品の中で、言うのは、監督の中でかなりずーっと描いても描いても描き足りない存在でしょうか? 今村 そうです。それは、いつも疑問をいっぱいはらんでいるからでしょうね。 千葉 やはり、監督の作品のいま野々川さんが言った強い女ですね、あの強い女に憧れを持っていると言う意味なんでしょうか? 今村 そうでしょうね。 千葉 それが、今回の場合なんか、強いと言うよりも可愛い女とか、憧れる対象とかね、そんな風にえがかれていてとっても素敵だなあと言う風に見ていました。 今村 それは結構ですね。 千葉 それじゃあ、監督にもう少し聞きたいんですけれど、あのいまのお話は清水さんと主役のお二人についてばっかりだったんですけれどね、あの横に出てくるバイプレイヤーにかなり著名な方を配していますね。あの辺の自分の考え方と言いますか、監督としてはいかがですか?あのミツの役者は倍賞さんですね。それから太郎(?)あれは北村さんですね。あのキャスティングは最初から決めてくるもんでしょうか? 今村 ほとんど最初から決まっていましたね。確かに北村和夫は、小学校からの私の友人でありますから、全部僕は、知っているわけですね、いろんなこと。 千葉 あの北村さんがしゃべるセリフって言うのがありますね、あれは監督が自分がいっているようなセリフに聞こえるわけですけれど、どんなもんですか? 今村 大体そうです。(笑)北村はこんなことは、知りませんよ。そんな細かいことなんてね。ちゃんと記事がとれるような、そんなことじゃないですからね。何にも知らない男ですから。(笑)あの知らない良さって言うのがありますね。
今村 懐かしいひとですね。しかしながら、どうも、もっと面白いはずだったって思って演出していましたがね。そんなに面白くなかった。悔しいですね。 千葉 もっと面白いって言うのは何を出したいんですか? 今村 まあ、滑稽感ですね。主人公にまつわる、女主人公にまつわる。ないしは亭主にまつわる。なにがしかのものをですね。うちだしてもらえればな、と思いました。 千葉 色々な意味でこの作品が日本の映画界の中にいま登場すると言うのは不思議な気がします。エー監督、台本に色々なところに工夫があったと思うんですが、思い残していること、あそこはもっとこうしたかったとか、そこの部分は、もしあるとしたら何ですか。 今村 そう言うことは、ほとんどありません。全く満足と言うわけではないけれどもね、えー、そんなことは、ないけれども、たとえば、『汽水』と言うことが出てきますね。そうすると、平凡な水ですね、平凡な水、普通の淡水ですね。向こうの方に日本海があってそっちから塩水が来るわけですね。ブリなんかそっちで出てくるわけですね。まあ、そう言うことをシナリオの時に想像して書いていた時に、これは、この水が全部排出されたらもったいないと思うんですね。どう言う精神なんですかね。そしてね、それは、魚が寄ってこなければいけないだろう。魚は必ず寄ってくるだろうと。で、汽水だから海の方に寄ってもいいし、川のほうに寄ってもいいけれどもそれは列をなしてドンドンと詰めかけてくるような魚どもでありたいと思ってね。そう言うのをいわゆるCGと言う特殊撮影的なもので展開したかったんですけれどもね、そりゃないんですよ。 千葉 一応は、試みたんですか? 今村 試みたんです。失敗したんです。 千葉 うまくいかないから・・・・ 今村 捨てちゃったんです。 千葉 て言うことは、今のが一番いいんですね。 今村 まあ、そうですね。 千葉 せっかくですから、会場から何か、質問はありますか?はい、どうぞ。 会場 エーと清水さんにお伺いしたいんですが、「監督になにをされてもいい」と思わせる今村監督の魅力を一言でおっしゃっていただければと思うんですが。
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