中学生、映画制作の熱い夏 ライン

 この10年、 新百合ヶ丘地域は 「芸術と文化の街づくり」 を目指して進んできました。 現在では巨大映画館もでき、 公共施設と合わせ市民の文化活動も盛んになり、 小田急沿線屈指の文化地帯と成りつつあります。
 しかし、 この街が本当に文化の街になったかと言えば、“NO”と答えざるを得ません。その最大の問題は、 青少年が触れ合う文化的状況がないことに尽きます。 ショピングや飲食の場は出来たが、 彼らの精神を高揚させたり、 クリエイティブな自己啓発、 自己表現する文化的端子が何処にも設定されていないのです。 大人の文化活動は満たされても青少年にはなにもない。これでは新百合ヶ丘の未来はお先真っ暗です。

 様々な才能をもった青少年が集い、 互いに影響し合い、 魅力的な文化状況を作り出してゆく。 大人や商業資本から与えられた楽しさではなく、 少年たちが、 自分たちで汗を流し楽しさを創造する“芸術と文化の街づくり” です。  「しんゆり」 に、 そうした夢を描くことは不可能なのでしょうか。私たちは、 そうした試みのひとつとして、 しんゆり映画祭の中に 「ジュニア・映画制作ワークショップ」 を設ける事にしました。 学校単位にとらわれない、 地域に住む中学生たちが自由に集まる、 「草野球チーム」のような映画制作のクラブ作りです。
 自分たちの生活する街で、 中学生たちが何を思い、 何を希求しているのか? 私たちは、 思春期の瑞々しい彼らの目線の先に在るもの、 彼らの感性がとらえた世界観、 夢や欲望を具体的に映像化して見せて欲しいのです。 大人たちが現実の生活の中で摩耗させ失った、 瑞々しい発見の驚きや喜びを、 その貴重な同時代の財産を、 私たちも、 また共有したいと願うのです。 勿論、 出来上がった作品は 「しんゆり映画祭」 で公開し町中の人達に見てもらいます。

 「ジュニア・映画制作ワークショップ」 は7月初旬からスタートしました。毎週土曜日に日本映画学校に集まり、 映画作りの方法を学び脚本を書く。夏休みに入った時点で3班に別れ、チーム別にロケハンやキャステイングを行う。撮影は約1週間、 お盆前までに小さな映画を完成させるというスケジュールでした。映画作りの指導は日本映画学校の講師陣と専門課程の学生たちが担当、また、各班毎に2名の映画祭スタッフが付きバックアップ体制を敷きました。
 こうして、 いよいよ 「中学生、映画制作の熱い夏」 が始まった訳ですが、 そのプロセスや結果については、 私よりも、 現場で汗と涙を流したスタッフや中学生諸君の報告を読んで戴きたいと思います。

この新しいプロジェクトには様々な困難や試行錯誤が伴うであろうと予測していました。 実際、 思いがけない障害に遭遇したことも在りました。しかし、 映画を作り上げたとき、 少年たちと大人の間に生まれた 「一体感や信頼の絆」 はそんな気苦労を吹き飛ばす心地よいものでした。
 私は、 試写を見ながら、 多少の苦労はしても「このプロジェクト」 は継続する価値があるものと改めて確信しました。今回、 「草野球チーム」 の応募は麻生区と多摩区に限定したため、 他区の中学生たちは参加出来ませんでした。 人材、機材、インフラ、資金と問題は山積みですが、 来年は市民ミュージアムにも参加してもらい、 中原区や川崎区にもチームを作りたいと思っています。 再来年には川崎市全体を網羅し、 やがて、 神奈川から日本中に映画作りの 「草野球チーム」 が生まれるのが私たちの夢です。

 思えば、 「草野球」が盛んだった頃の日本少年には“少年の香り” が漂っていました。今日では少女たちも参加するので“思春期の香り”とでも言いましょうか。
 「しんゆり」を、“美しい香り”を持った少年少女が闊歩する街にしたいものです。

平成12年8月19日
ジュニア・映画制作ワークショップ
総合プロデューサー 武重邦夫記


担当講師からのメッセージ ライン
「C’est la vie」班指導
花田深(日本映画学校講師)
 恐るべき子供たちだぞ、あなどれないぞ、中学生は。呑み込みが早い。速すぎる。自分の納得いくものだけを取っていく。お前たちはずるいぞ。割り切りが良すぎるぞ。子供は自分をよく見ている。悲しみを知るくせに喜びを捨てようとする。不健康な大人は枠にはめようとする。映画はかぎりなく自由だ。若さゆえの苦しみも、すべてまるごとひっくくれ。映画の中で泣いてみろ。映画は素敵だ。だから人生も。今年のセラヴィ班、愉快だったぜ。

「しまうまの耳」班指導
栃原広昭(日本映画学校講師)
 業務連絡、しまうまの耳班、当日は正装にて集合せよ!
 まずは素敵な夏を有り難う。そして自信を持っていい。みんなよく頑張った。ただし、よく考えよう。我々は何を為し得、何処に到達したのか。映画は単なるメディアだ。単体で成就するものでは無い。上映され他人の目に晒されて初めてその体を為す。感情でも意味でも何でも良いが、観客に届けられたのはナンダ。そして……… 
 業務連絡、しまうまの耳班、当日は正装にて集合せよ!


「G.M.M.」班指導
佐藤武光(日本映画学校講師)
明るく元気な奴、引っ込み思案な子、生意気な奴、色々いたな。チョット言ったら泣いちゃうし、おっかなビックリスタート。なんせ子供を教えるのは、当方初めて。もう1日で疲労困憊。でも子供たちも同じ気持ちだったんだろうね。互いに我慢するのがよくないと気づいた。「怒鳴った」「笑った」「泣いた」。「映画作りを知らないから教えろ」という主張「知ってるから教えたい」という主張。僕と子供たちとの素敵で対等な関係が出来あがった。映画完成後、僕に送ってくれた色紙には「いっぱい怒られたけど後悔してません」。また彼らに会いたい。