寺田:皆さま、『カンタ!ティモール』、いかがでしたでしょうか?巷では「やられたらやり返す。倍返しだ!」が大ブレイク中で、「倍返し」は今年の流行語大賞になるのではないかと個人的には思っていますが、この映画では「敵を赦す」という戦略によって戦い抜いた人々の姿が描かれていました。そして、全編に流れる美しい音楽、子どもたちの笑顔、戦いを生き抜いた一般の大人の方の一言一言、とても重い言葉が印象に残ったのではないかと思います。
さて、これから広田奈津子監督をお迎えして、東ティモールとの出会い、撮影のきっかけ、撮影中のエピソードなどを伺いたいと思います。トーク後半では皆さまからのご質問をお受けしますので、ぜひこの機会に直接、監督に質問や疑問をぶつけてみてください。それでは、さっそく、広田監督をご紹介いたします。皆様、拍手でどうぞお迎えください。本日、名古屋よりお越しいただきました。(拍手)
広田監督はとてもお話がお上手なので、マイクをお預けします。どうぞ、よろしくお願いいたします。
広田監督:皆さん、こんにちは、広田奈津子と申します。今日はよろしくお願いします。長い作品にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。2時間弱あり、途中、少し重い内容もあったかと思います。大丈夫でしたでしょうか?事実は受け止めるべきだとは思うのですが、ぜひ、胸には彼らの笑顔や音楽を残して帰っていただけると、とてもうれしいです。背が小さくて座ると顔が見えなくなるので、立ったままお話します。15分くらいお話をして、皆さまから質問や感想をお受けしたいと思います。
まず、映画の主人公のように出てきたヘルデール・アレックスさんから伝言を預かってきていますので、最初にそれをお伝えしたいと思います。2011年5月に、初めて彼らに映画を報告、観せに行きました。その後も何回か会っていますが、2011年は、(東日本大震災の)津波の直後で、彼らもとても日本の心配をしてくれていました。なけなしのお金を集めて「東北に送ってほしい」などと言われました。特に、「家族の遺体が見つからないのは本当に辛いことだ」と、いろんな方に言われました。
アレックスが、「特に僕は、原発事故のことを心配している」って、言っていました。「僕らは地下資源をめぐる戦争ビジネスを見てきたから、原発っていうものの背景にいかにややこしいことがあるか、想像している。だけども、それでも、これは乗り越えられる試練で、今、日本の人たちはきっと頑張っているだろうから、日本に帰ったら伝えてください」と言われた伝言があります。それが、「自分たちの仲間が10人にしか見えなくて、対するものが大きくて、巨大で、1000人にも見えても、もしそれが本当に命に沿った仕事、命が喜ぶ仕事であれば、亡くなった人たちが付いていてくれる。それは1000どころじゃないから、絶対に大丈夫だから、恐れないで続けてください。仕事の途中で命を落とすことがあるかもしれないけど、それでも大丈夫だから、恐れないでください。もし、どうしても仲間が10人にしか見えなくなったら、僕らのことを思い出してほしい。東ティモールはとても小さかった。あの巨大な軍を撤退させるなんていうことは、できたら奇跡だ、と笑われた戦いでした。でも、最後には軍は撤退しました。それは夢でも幻想でもなく、現実に起きたことで、目に見えない力も僕らを支えてくれたから、どうか信じてください」という伝言でした。
もちろん、原発に関わることだけじゃなく、あらゆる仕事のことを彼は言っているのだと思うのですが、それが本当に命に沿っていれば助けが必ず来るから大丈夫だ、というエールでした。「仕事の途中で命がなくなっても大丈夫」とは、とても彼ららしいなと思うのですけれども、いろんなところでそれを聞きました。
この撮影は全くツテもなくて、ただアレックスを探しに日本から2人で島に戻ったところから旅が始まりました。撮影は現地の方にたくさん助けられて進みましたが、それだけでなく、いろいろなところで不思議な偶然に支えられたんですね。通れるはずがなかった川が通れるとか、独立直後だったので、とても忙しく、会えるはずもない初代大統領に奇跡的に会えるだとか、そういうことが連なったんですが、編集中にもそういう不思議なことが何度か起きるわけです。そういう出来事に出くわすうちに、なんだかこれは平和を願って、願って、亡くなった人がまだ世界に平和が来るのを夢見て仕事をしてくれているのかもしれないな、と思うようになったんですね。私はお化けも見えないですし、まったくそういった世界は分からないんですけれども、本当に奇跡的に進む撮影でした。
彼らの「命を落としても大丈夫」というのは、自分の命が「自分が死んで終わり」ではなくて、「平和への願い、平和を作っていく力というのは、世代を超えてつながっていくんだ」という信念のもと、武器で脅されても、お金で誘惑されてもひるまなかった人たちがとても多いのかなと思います。最近、磁石の作り方というのを聞いたのですが、磁石って、磁石の横に鉄を置いておくだけでその鉄も磁石になるという。すごく、戦争や平和の問題って難しいですよね、何世代かけてもなかなか平和が実現できないでいるけれども、その話を聞いて、私はこのティモールの旅を終えて、たった一人でもこの強い想いを持ったら、磁力が目に見えなくても鉄に影響を与えるように、たった一人でもそこから何か広がっていくんじゃないかと思うんですね。磁力って、鉄からしたら磁石になりたくなくても、もう宇宙全体の力であって。それと同じで、私たちの命が「癒されたい」「治りたい」「平和の方向に行きたい」「命が永らえる方向に行きたい」という力は、もう出どころのわからない、もう誰にも邪魔できないというか、そういう力があるんじゃないかなと思うんですね。
東ティモールは岩手県ぐらいの大きさで、たった6、70万の方々が住んでいました。そこへ、2億人国家のインドネシア首都から3万ともいわれる兵士が陸・海・空から攻撃に入ったわけです。最初は「朝ごはんを首都で食べれば、夕ごはんは一番東の町ロスパロスで食べられる」と言われていたんですね。つまり、1日あれば東ティモールは落ちる、と言われていたんです。それが結局、24年間かかって軍隊の方が諦めて撤退するかたちになったわけです。人が持つ命の方向の力っていうのはすごい力なのではないかと思うわけです。今、日本を覆うこの無力感というか、「残念な感情」と個人的にはときどき感じるのですが、そういうものがあっても諦める必要は全くなくて、たった一人の磁力が広がっていって、地球全体に広がることを信じています。