座談会 今村監督を迎えて「今村映画の現在・過去・未来」 98年10月7日(水)16:20〜
ゲスト:今村昌平(映画監督)、麻生久美子(女優) 特別ゲスト:仙頭直美(映画監督)
司 会:千葉茂樹(映画監督) 参加者:白鳥あかね(実行副委員長)
・カンヌ4000人の吐息
・『カンゾー先生』と我が親父・せがれ
・琉球に追い出した息子 天願大介さんとの共同脚本
・鬼の今平昔話
・今村映画のエネルギーの源は女の子
・フィルムを切る 「出血多量で倒れそうになりますよ」
・対談 カンヌコンビ
・監督という仕事
・それから 次回作は…
千葉:みなさん今日は。今日は今村監督を囲んで「現在・過去・未来」ということで、ざっくばらんにお話をして頂きたいと思います。私と白鳥さんが引き出し役です。よろしくお願いします。
白鳥:よろしくお願いします。
千葉:早速ですけど、この『カンゾー先生』、今メイキングと作品をご覧になってますが、カンヌに招待作品で行って来たばかりなんですね。まずはその時のお話から頂きたいのですが、せっかく麻生さんも見えてますから麻生さん、カンヌに『カンゾー先生』と一緒に行って、どんな感動というか、何があったんでしょうか?
麻生:いやもうすごく人が多くて、あの赤じゅうたんを上った時に一瞬ですごい緊張しちゃって、もう感動しました。で、映画が終わった後に皆さんすごいたくさん拍手をくれて、もう本当に感動しました。十代最後にすごい良い経験をさせて頂きました。
千葉:監督自身は『うなぎ』につづいて何度目のカンヌということになるんですか? その前にも『楢山節考』がありますからカンヌは慣れていたと思うんですけど、『カンゾー先生』の招待作品の上映と、その時の印象はいかがなものでしょうか。
今村:慣れてはいましたけどね、だけどもその賞をもらうって所まで行ったことはないんですよね。『うなぎ』でもそうだったし今度も。今度は賞はないですから招待作品っていうことになりますとね、そういう何か、わぁーうれしいというようなそういう瞬間はないのです。(笑)
白鳥:贅沢な(笑)
千葉:『うなぎ』は途中で帰ってきちゃったそうですけど…今回は最後までいたんですか?
今村:いました。ええ、そのわぁーっていう瞬間はないだろうっていう見込みでね。それはあの、うれしいことですから。ええ、なにか燦然と賞に輝く何とかね。そんな風になってると、とっても恥ずかしくて遣り切れないでしょう。そういうことがないので安心しておりました。
千葉:上映の後の反応というのはどういう風に感じたんですか?
今村:それは、すごかったです。それまで試写室みたいな所で、ええそうですね50人くらい入る小屋ですけども、そこで最後の試写に近いところを観るわけですね。そうするとスタッフ60人が息を呑んで俺のやっていたカメラはどんな風だとか、小道具はどうだとか、色んなことを考えながら観るわけですよね。そうするとせっかく試写をやって、解放されて、色んな想いがあるにせよ、しかしその喜びごとを生むという感じはね、当然あって差し支えないんだけども、観てるとね、息を潜めて黙って身動き一つしないで観ているわけです。
それは色んな想いが重なってると思うんです。四ヶ月間、半年間に近いわけですから、その想いが重なって笑ったり騒いだりは出来ない、という緊張感のまま観ているわけです。ですから、お前らもういい加減に解放されて、ええ自由自在に笑ったり何かしたらどうだいって言いたいんですね。言いたいんですが、まぁそうは言えないっていう感じがあって、で、観ていると最後までその緊張感みたいなものだけで終わってしまうわけですね。だからまことに残念なわけです。色々、笑いもあるしナントカもあるしという風に仕掛けてあるにもかかわらず、そんなことには何にも反応しないでしゃにむにじーっと、こう見つめているんです。そこの絞りがどうだっていうようなことをきっと考えているんだろうと思いますけどね。
ただ残念ながら4000人の大観衆はフランス語しか分からない奴らなんですね。そらしょうがないけれども、だったらスーパーインポーズしてありますから、そのフランス語は確かなんだろうなっていう風に少し疑いの目を持って観てるわけなんですね。(笑)
千葉:(笑)伝わってるのかと…
今村:しかし僕の第二外国語の知識ではね、とても見破ることは出来ないんですよ(笑)。ですが、とにかくそれらしい言葉が並んでおりまして、それを頼みにして鑑賞してくれているに違いないわけで、その4000人の吐息が色々と聞こえてくるわけですね。何かくしゃくしゃと言うようなのもいるし。そのうちにその4000人の中に一人、携帯電話を持っている奴がいて、これがリンリンってなるわけですよ。そうすると4000人がものすごいブーイングでこの男を指すわけですね。そうなったらとてもじゃないけど怖いだろうなと思うんですけど、その一人が何かぶつぶつ言いながら出ていっちゃう、ってなことになってそれは結構なことだと思って見てますと、また平静に戻っていっぱい笑ってくれるわけですね。それは実に開放的な笑いであり、ちょっとおちょくったようなくだらない所もありますし、いくらでも笑えるような場所は作ってあるんですけど、そのツボで全部間違いなく笑ってくれるわけですよ。誠にいい具合でね。
しかも終わったら満場の拍手というのがありまして、前の二列目か三列目くらいのところに私がいまして、〈皆が〉こっちを向いてるわけですね。ところが何か突っつかれたりなんかして、向こうの反対の方を見ると、こんな高いところから今のこの天井の向こうまであるような席で、ずーっと笑ったり騒いだりしてくれるわけですね。それで誠にどうも具合がいいってことで、私はつい涙もろくなって、涙するのではないかという目にあいました。私は70になるんだけども、ついぞ泣くぞっていうことはないんですね、ガキの時分から。そりゃガキのころは泣いたかもしれないけども、全然泣いたという覚えがないんでね、びっくりしました。
千葉:ここで作品の成り立ちについてもお話を伺いたいと思うんですけど、このパンフレットにもありましたけど『カンゾー先生』の原作に出会ってるのはもう助監督の3本目か何かのときですね。その作品というのが結局お医者さん、カンゾー先生なんですけど、これをお父さんとダブらせて受け止めたということが書いてありますね。そのお父さんというイメージがあの作品の中にというか映画の中にも反映されているんでしょうね。
今村:いや、もちろんそうです。親父は不細工な医者でしたけどね、すきっとしない、およそスマートでないしでないし、粗っ削りのというか何かその、間の抜けた医者でしたよ。だからお金も儲からない。私はそのために酷い目にあってるって言うような被害者意識に燃えたり何かもしましたけどね(笑)。とにかくお金はさっぱり儲からないですね。ええ、東京の健康保険医の第一号だった、たぶんそれくらいだと思うんですけど、戦争中にそうなりました。今村医院には薬局がないんですね。親父が処方箋を書くとそれをぽっと〈私に〉渡しまして、それを持って薬局に買いに行くわけですなぁ。そういう風に『カンゾー先生』もしました。そういうことも少しは親父をなぞったりなんかしました。
千葉:監督の書かれたこの『遥かなる日本人』の中に、お父さんの手伝いをして注射するのを手伝って、「押さえてろ昌平!」とか何とか怒鳴られてるっていう風に書いてあるんですけど、実際には診療所を手伝ったんですか。
今村:ええ、そうです。書生さんが何人かいましたけどこの連中が全部兵隊に行ってしまいまして、その間、中学校の3年生ぐらいの僕がいるっきりなもんですから。大塚のね、サンギョウチって言います芸者さんだとか何かそういう所の女性は、多くのどをやられるわけですね。ギャーギャー歌うからでしょうね。それで喉の治療にくるわけです。そのうち喉が腫れてしまうってなことになると化膿する可能性もあるんですから。そこで化膿性疾患に対する、その何て言いましたかな…アル…
千葉:アルバジル
今村:アルバジル
千葉:って言いますね。
今村:アルバジルは痛い薬なんですけどね、これを太腿へ射すんですよ。ほうすっとその、前を捲くって太腿を露出するお姉さんたちが大勢おりましてね。私はそれだけが楽しみで…。
(場内笑)
今村:…その足に取り付いているわけなんですけどもね、それがあのつい、目が定まらないとはいえですね、しっかりとしないとってことになって怒られるわけですね。それでびっくりして押さえ直したりなんかしている、という良い目にしばらくは会いました。
千葉:原作からこの脚色に至る苦労があったと思うんですけど、これは原作が〈舞台は〉伊豆でしょうか。
今村:そうです。
千葉:今度は広島に近い岡山に持っていって、特に後半の話が変わっていくんですけど、共同脚本をやった天願大介さん、この方は皆さんご存知かも分かりませんが、ご子息なわけですね。
今村:はい。
千葉:共同脚本をやるってのは難しいんでしょうか、上手くいくんですか?
今村:上手くいかないですね(場内笑)。ほとんど喧嘩に近いですからね。
息子は大学受ける時にごたごたしまして、勉強はあまりしたくないとか何とか言って、しかしあんまり勉強しなくても入れるところがある、国立であるぞとか何とか言って私が紹介したわけです。それは沖縄の琉球大学という大学で、あそこはなかなかええぞっていうようなことを言ってですね、半ば騙してそっちを受けさせたわけです。お前は琉球にしばらく居れと、そこで勉強することによって日本古というものを琉球古から打ち眺める、という目を得なさい、それは非常にためになるぞっていうようなことを言ったわけですね。そうであるに違いないんで、今でも嘘をついた覚えはないんですけど、しかしせがれは捨てられたっていう気持ちが強いらしいんですね。
千葉:ああ
今村:まぁ捨てたっていいんですけどね。
千葉:(笑)
今村:ええ、そういうことがあって、その捨てられた我が子がですね、幾分成長して脚本を書くようになりまして、特に一番最後にクジラが出て来るんですが、そのクジラの所は「親父のくそリアリズムから一歩抜け出たい」ってなことを言いましてね、実に生意気なわけですよ。 (場内笑)
いや、これがね、俺の作品が全部くそリアリズムだと思うなって言って、色んな例証を挙げて、そうでない部分もたくさんあるってことを言いたくて説くわけですけどもね、でもてめえはそういう風に思いこんじゃってますからね、なかなかその抜けない。頑固者なんですよ。とにかくひどく頑固でね、言うこと聞かないんです。
白鳥:父親譲り…
今村:いやいやそんなことはない(場内笑)。父親は実にあの、何て言うか(笑)、柔らかい・・・柔らかい男ですけどね、ええ。
千葉:やっぱりじゃぁ、息子のアイディアというのは納得いったわけですね。
今村:ついに納得しました。
千葉:やっぱり僕ら観ていて、非常に驚きですよね。あの瀬戸内海にクジラがいるのかっていう風に思いましたけど…
今村:ええ
千葉:クジラを登場させて、ソノコ〈麻生久美子の役名〉が追っかけますよね。あの辺がやっぱり素晴らしいなと思いましたけど。
今村:はぁ
白鳥:私はね、やっぱりソノコが「先生にクジラ食わしちゃる」って言うじゃないですか。あの台詞がやっぱり女性として、こう精一杯の愛の表現という風に受け止めてすごい感動的だったのね。で、その後に及んで本当のクジラが出てきたのはやっぱりびっくりしましたけど。
千葉:あれ、実際には銛(もり)を持って飛び込みますけど…
麻生:はい、
千葉:あれは引っ張られるってことは刺したんですね、クジラを。そういうことになるんですよね、監督。
麻生:そうですよね。
今村:刺しましたよ。
麻生:はい、フフフフ(笑)
(場内笑)
白鳥:刺して、ずーっと引っ張られて…
千葉:引っ張られて…
白鳥:…行くんですものね。
麻生:はい。
千葉:ここからは今村昌平の過去といいますか、すごさという話をちょっとしたいんですけど、私どもは学校や色んな場で監督と接してますが、撮影の現場を知っているのは、白鳥さんが一番良く知っているんですね。今村昌平のすごさというのをちょっと過去に振り返ってお話頂きたいんですけど。
白鳥:私さっき監督のお話を聞いてて、僕は小さい時から泣いたことがなかったという話で、その代わり随分泣かせたんじゃないかな…と(笑)。それを監督に伺ってみようと思ったんですけど(笑)。私が監督とご一緒にやったのは『果てしなき欲望』という長門裕之さん主演の映画だったんですけど、その時に監督はもうおいくつでしたっけね。
今村:いくつですかね。
白鳥:まだ30になるかならないか…
今村:そうだね。
白鳥:そうですね、私の計算だとそうなるんですけど、あの日本映画監督の登竜門と言われる、ブルーリボン賞、ブルーリボン新人監督賞というのをその映画でお取りになったんですけど、その時に今で言えば今村ファミリーと言うんですか、殿山泰司さん、西村晃さん、亡くなりましたけど、それから小沢昭一さん…
今村:(ぼそっと)加藤武
白鳥:加藤さん、そういう方たち…
今村:(ぼそっと)渡辺美佐子
白鳥:そうですね、それでその渡辺美佐子さんなんですけど、嵐の夜に日本軍が地下に埋めたというモルヒネを探し出して、それを売ってみんなで山分けしようって話なんですけど、嵐の夜にそのモルヒネを独り占めして逃げるっていうシーンがあって浴衣一枚で逃げるんですけど、消防車を何台も呼んできて、玉川の水を汲み上げてその汚い水を雨で降らした上に渡辺美佐子さんにぶっ掛けて、ずぅっと延々と逃げて行くシーンを撮ってたら、とうとう渡辺美佐子さんが倒れちゃったんですね。それで思わず駆け寄って、渡辺美佐子さんを抱き起こそうとしたら、「あかね!ほっとけ!」って。で、「美佐子!走れんのか!」ってすごい声で号令かけるのね。私はこの人は鬼だって(場内笑)、その時に思ったんだけど、麻生さんは今回、そういう経験はなかった?
麻生:なかったです。(笑)
白鳥:ああ、それは良かったですね。
麻生:はい。
千葉:若い時の監督に会ったら大変だったね。
麻生:そうですね。
千葉:非常に成熟して(場内笑)、温和な監督だから(笑)
麻生:はい。(笑)
担架でスタジオ入り
千葉:でも鬼の今平っていうのは今でもどっかにある、という風に思いますけど、あと何か監督自身が血を吐いたってこと、知ってるそうですね。
白鳥:そうなんです。それもやっぱりその撮影の時で、あの日活にオープン・セットというのがあって、長屋の路地みたいなのが造ってあったんです。その時私いつも監督の隣に並んで座ってたんですけど、なんか様子が変だなと思ったら、バーって奥に走って行ったんですね、監督。それで私が慌てて、これは何か異変だと思ってずっと追っかけて行ったら「来るなっ!」って、またすごい声で怒鳴られて、来るなって言われたから私はもうそこで止まっちゃったんですけど、ずうっとその後ろ姿を見てたらオープンセットの隣で大量の血を吐いてるんですね。吐血してて、でも何かやっぱり自分は監督としてその場を、そのカットをまっとうしたいという気持ちが強かったので、多分私に騒がれたくなかったんだと思ったんですけど、やっぱり人命に関わることだから、救急車を呼んでもらってその場で運ばれたんですけど、あの時なんで「来るな」って怒ったんですか?
今村:(ぼそっと)お前がうるさいからな
白鳥:はっはっはっはっ。
今村:(ぼそっと)何か騒がれるのやだから。
白鳥:はっはっはっはっ。そうだったと思う。
今村:(ぼそっと)ゲーゲー吐いてるのに。
白鳥:でもやっぱり、その時は…
千葉:それは凄いですね、それでまた次の日、担架でスタジオに入ったんですよね。
白鳥:(笑)そうなんです。その日はとにかくもう撮影続けなきゃいけないって、監督は救急車乗って行ってしまったし、もう今は亡くなったんですけど浦山桐朗という『キューポラのある街』という名作を撮った監督で、その彼がチーフだったもんですから、その後「よーい、はい」をかけてたんですね。そして今村さんがいつになったら病院から出られるのかって、私もそろそろお見舞いに行こうかなと思ってたら、本人が担架に乗ってやって来て、そして自分で「ようい、はい」をかけてたんです。
映るウエディングケーキ 「回れ右!」
千葉:何かその話を聞いていると、涙も何もないと言うか、鬼の今平って感じなんですけど、そういう面だけなんでしょうか。もっと別の面が・・・。白鳥さんは結婚された時の仲人、お世話役(笑)?
白鳥:そうなんです。(笑)
千葉:そういう隠れた面は、今日しかないんじゃないかと思うんですけど。
白鳥:そうですね。死ぬまで頭が上がりません。その節はどうもありがとうございました。(場内笑
)
千葉:貧乏な時代に白鳥さんと監督、白鳥さんのご主人は監督だったんですね。
白鳥:そうです。
千葉:その方とご一緒になる時に…
白鳥:浦山桐朗という監督と同期だったわけです、白鳥と。二人ともお金が無くて結婚も出来ないので、浦山桐朗がある日、京王線の中で「あかね、お前結婚したいのか」って言うから「はい」って言ったら、「じゃぁ、俺に任せるか」って言うから「あの、お願いします」って言ったら今度今村さんの所へ頼みに言ったんです。「俺たちお金が無いんで何とか結婚させてください」って。そしたら今村さんが、あの時確か会費200円でしたよね、幡ヶ谷の公民館を借りてくださって、フランキー堺と小沢昭一さんが司会をやってくださって…
千葉:(ぼそっと)すごいですね。
白鳥:(笑)日活のオールスターと、それから監督とスタッフが皆さん出てくださって、すごい立派な結婚式を挙げていただきました。その時に今村さんに、これからケーキ・カットをするからナイフを持ってって言われて、ケーキを切るナイフを二組の夫婦が並んでこういう風に持たされて、そしたら今村さんが「回れ右!」って号令をかけるんで、回れ右したらここにスクリーンがするするっと降りてきて、そこに大きなウエディングケーキが映ったんですね。 (場内笑)
千葉:スライドの奴ですね。
白鳥:(笑)やっぱりお金が無かったからスライドにしたんですか?
今村:そうですね。
白鳥:すいません、どうも。(笑)
千葉:人をまとめてったり、色んなアイデアを出すってのは、その頃からもう、仕切り屋なんですね。(笑)
白鳥:もう、そう…
千葉:でも優しい面もありますね。
白鳥:そうですね。
白鳥:実は、監督と、この映画『カンゾー先生』が出来上がってからあるパーティーで御一緒になって、その時エレベーターの中で監督が、「今度の映画は少し『豚と軍艦』のような映画になった」って御自分でおっしゃったんですね。それで私『豚と軍艦』をもう一回観直してみたら、その時に気が付いた事は、非常にしっかり者の、そして元気の良い若い女の子、あの『豚と軍艦』に出て来た吉村実子。それと何か今度の、あの…麻生…
今村:(ぼそっと)ソノコ…
白鳥:うん、ソノコ、麻生久美子さんがね、何かこう重なってきて、あっ、監督はやっぱりこういう元気の良い女の子、いつも作品の中心に据えて、で、その興味がある限りそのエネルギーは失われないんじゃなかっていう、変な言い方ですけどそういう気がうるんですけど。
千葉:監督自身はどうですか。その御自分の…
今村:そうだね、いやつまり、女の子が中心なんですよね。
白鳥:そう、気が付きました、私。
今村:ええ、だから彼女が気が付いたように、その通りなんですよ。あんまりお母さんじゃね、駄目なんですよ。
白鳥:すいません。(笑)
千葉:(笑)まあでもそれをシナリオに書き込んでいく時からそういうエネルギーをため込んでいくんですけど、実際にはキャスティングが大事ですね。
今村:そうですね。
ソノコ役(麻生久美子)はお母さんの笑い声が決め手
千葉:麻生久美子さんっていうのは、どのようにして抜擢したんでしょうか?
(間が開いて、場内笑)
千葉:監督ちょっと、その頃の、こう探し、探し続けたっていう話しをして頂きたい…
今村:100人ぐらい来たかな?
麻生:はい。
今村:その、女性たちがね。
麻生:(何やらぼそぼそ)
千葉:ソノコというのと麻生さんを、ここだと言う風に思ったのは、どこですか? 監督。
今村:ええ、ときどき言うんですけどね。千葉の名も知れぬ田舎の出身なんですよね。名も知れぬって言うと怒るけど。 (場内笑)
ええ、名は知れてるっていう風に言うんですがね。最近テレビでね、ええ、何とかって言うあなたの町、町があって、何だっけ。
麻生:山武町です。
今村:山武町、山武町って言うね、本当にどこにあるか分からないような所ですが。
麻生:(笑)
今村:そこの建物について、秋田の杉をつかったね、多用した、その建物が粗悪な建物であって、山武町に、その粗悪〈な建物〉が集結しちゃったんですね。どういうわけか。(笑)
(千葉・白鳥笑)
今村:で、山武町に行ってみると、全部の床下なんかが、こうスポンと開いてたりなんかするわけですね。上にピンポン玉を乗せると、ピュウと落っ転げちゃうというようなね。そういう素晴らし建物があって…
麻生:(爆笑)
今村:ついそれびっくりして、時々見ますけどね。調べに行ったわけではないけれども、彼女に会って僕は気に入りましてね。もうこれだっていう風に思ったんですけども、まあ、みんながね、あんまり賛成しないんですよね。それで、それじゃまあと言って、自動車に乗ってその山武町という所へ遥々行ってみたわけです。行ったところが、その建物はそんな狂ったような建物じゃなかったですけどね。ええ、そこにお母さんとおばあちゃんがいたのかな?
麻生:はい。
今村:で、挨拶をして、つくづく顔を見ていずれこの娘は、あの、あのお母さんみたいになるんだっていう風に思って、見ているうちにですね、「いやぁ、相当いいぞ」という風に思い出してですね、それでお母さんに挨拶をしてるうちに、「わっはっはっ」と色々元気良く笑ってくれるんです。で、…まあ、そう言うわけだ。 (場内笑)
千葉:お母さんと両方見ておかなきゃいけなかったんですね。
今村:そうですね。
千葉:そりゃあ、あの、監督に声かけられた時の麻生さん、どうですか、その…
麻生:はい。
千葉:その時、台本見てるんですか、まだ?
麻生:いや、一番初めに会った時は、見てなかったです。ただ監督と、今村監督と会うからって言われて監督の事務所に行ったんですけど、そこで、うん、普通の…
千葉:これが『うなぎ』の監督かと言って、
麻生:はい。
千葉:じーっと見てた?
麻生:そうですね。(笑)
千葉:恐い、と思った?
麻生:いや。視線は何かずーっと目を見てそらさないんで、ちょっと恐いかなって思ったこともあったんですけど(笑)でも、話すと優しいし、笑うとすごい素敵な笑顔で。
千葉:ああ、恐いと言う印象ではなかったんですね、じゃあ。
麻生:はい。
千葉:やっぱりキャスティングってのが、本当に大変だと思うんですけど、まわり人が反対したのは声が悪いと思ったって言うんですけど、監督はどう思ったんですか?
今村:自分では声が悪いとは思いませんでしたね。ここにいるあの録音のね、水谷さんなんかには「声に問題あり」っていうようなこと、すぐ言われましたね。
白鳥:(笑)この中にね、観客席の中にね。
千葉:いらっしゃいますね。録音のベテランの…。その時監督はこの声でいいと思ったんですね?
今村:いいと思いました。どんな声だってかまわないっていう風に思いましたけどね。 (場内笑)
千葉:そうすると、麻生さんのここが決め手と言うか、ここならいけると思ったのは何ですか?
今村:いや…
千葉:お母さんの笑い声じゃないでしょ。
今村:いや、だいたいそんなとこです。
(場内爆笑)
千葉:じゃあお母さんに、とっても大事なポイントがあった(笑)。ま、これは半分、嘘だと思うんですけど…
白鳥:お母さんに感謝しなきゃね。いいお母さんを持って…
千葉:ねえ、うん。そして実際に演技の現場に行った時、麻生さん、
麻生:はい。
千葉:しごかれたんじゃないんですか?
麻生:いや、そんなことないです。
千葉:どこが一番難しかったですか?
麻生:…いや、全部難しかったですけど。(笑)
白鳥:メイキングを観てても、昔に比べるとものすごく優しい話し方ですね。
千葉:うん、そうですね。俳優さんに対してね。
白鳥:そう、俳優さんに対して。だから本当に、渡辺美佐子さんは気の毒だったと思うけど(笑)。でも残った映画は、やっぱり素晴らしい映画で、凄く色っぽくてね。それだけ名優が並んでるのに、一人でさらってますもんね。でも、麻生さんに対しては何で怒んなかったのかしら? (場内笑)
今村:何も怒んない、怒ることはないからさ(ぶっきらぼうに言う)。 (場内笑)
白鳥:(笑)最初から及第点だったんですね。
今村:及第でした。
白鳥:ああ、素晴らしい、それは。
千葉:やはりそれは選ぶ目がもうかなり出来てるから、若い時代のようにしごくというよりは、見た目で、これは大丈夫だと思った所、もう怒鳴ることはなくなると。
今村:そうですね。渡辺美佐子に関して言えばね、「私でいいんでしょうか」って生意気にもそういうこと言うんだよ。それでね、読み合わせの時にね、「駄目なんだよ、本当はお前じゃ」って言ったのね。「じゃあ、誰がいいんですか?」って言うんで、「山田五十鈴がここに来ればね、山田五十鈴がいい、と言っただろう」と言う風に話したんです。そしたら、後々までそれを言うんですよ。いつまでも、いつまでも(場内笑)。そういう風にね、ねばっこく。他の女優の名前あげられたら、そりゃ愉快じゃないだろうけどね。だけども、ええいいやと思って言っちゃったわけね。そりゃね、色っぽさなんかが足りないんですよ。全然無いと言ってもいい(場内笑)。色気無しっていう感じなのね(場内さらに笑)。だから僕は不愉快だったんですね。もう一挙手一投足にね、色気の無い女ってのを見ると損したってことをどうしたって思うわけですよ。(笑)
千葉:今回は全然損しなかったわけですね?
今村:そりゃなかった。色気を要求するって言うような所もあんまりなかったからね。
千葉:でも…
今村:あれば、そりゃ色々損したと思うでしょ。
麻生:(笑)
千葉:そうですか。カンゾー先生と間にある、微妙な色気っていうようなを僕なんかは感じますけどね。とっても、あの何て言うんでしょうね。ふくよかな色気と言うか、可愛い色気とかね。
白鳥:もし今村さんがカンゾー先生だったらどうしました?
千葉:ソノコにせまられて、どうするんですか?
白鳥:ソノコにせまられて…
今村:せまられたら、すぐOKだよ。
(場内爆笑)
千葉:最初に編集した時、3時間を超したそうですね。今日観ていただいたのは2時間ちょっとですから、1時間ほどフイルムを切ってるそうですけど、どうですか、切るってことは大変なことでしょう。
今村:きついですね。ええ、あと15分、あと10分、という風になればなるほど、出血多量で倒れそうになりますよ。だから、始めの30分とかね、40分、50分あたりまでは出血がさほどじゃありませんから、まあ右手が半分取れたってな風に思うのは、ええ、30分以降ですね。
千葉:その3時間あった作品を観てるのは、こちらの実行委員長の武重さんなんですけど、彼がやっぱりその重量感に圧倒されたと、3時間の作品を我々は観れないだろうかと、私は思ったんですけど、あれは残してないんですか?
今村:まだ残ってると思うけどね、ええ…
千葉:幻…
今村:岡安さんという人がここにいますけどね…
白鳥:え、どこかこの中に…
千葉:岡安さん、編集の岡安さんですね。
今村:岡安さん、取っといてくれれば、取ってある。
千葉:岡安さん、いたらちょっと一言、どこかいますか?
岡安:捨てました。
千葉:捨てましたって言ってますけど!(場内笑) ああ、ひどいね、これ…
白鳥:(今村監督に)捨てたそうですよ。
千葉:幻の作品というのは、もう岡安さんとか何人かしか観てないと…。3時間〈の作品〉ていうのは、本当は大事にして欲しかったですね。
白鳥:私も作る側ですから、いつもその、切る切らないで大騒ぎになるんですけど、映画に時間があるっていうのはどういう風に思われますか?
今村:ええ、興行会社の都合でね。2時間までは何とかなるけども、2時間を過ぎるとバスの時間っていうものがあって、田舎へ行くとね、2時間だってもたないっていう風に言われるんですよね。ですから、その、田舎のバスの時間っていうものを注意して(場内笑)、僕ら演出家は夢中になって、切ったり接いだりなんかしなきゃなんないですね。そういう目にあんまり会いたくないって、いつも思うんですけどね。しかしこれはほとんどしょうがないことらしいんで、ええ、今度もその命令に従いました。
千葉:ああ、鬼の今平もでも駄目なんですね、そういうとこはね。
白鳥:そういう時はやっぱり、鬼の目に涙、ですかね?
千葉:(笑)そうですね。
「あの、私…日本から作品を持って来てるんですが…」(仙頭監督)
「あっ、そう」(今村監督)
千葉:次に作品の上映があるんですけど、仙頭直美監督が見えてますのでここで是非、加わっていただきたいと思います。どうぞお願いします。皆さん拍手でどうぞ。
(場内拍手)
特別ゲストの仙頭直美監督をご紹介します。あの、あれっ?座ってください。どうも有り難うございます。ええと、昨年カンヌの映画祭でカメラ・ドールを最年少の監督として受賞されて、今回は是非今村監督とお話しもしたいということですから、ここから先はお二人になるべくお話して頂きたいんですけど、仙頭さん、今村監督に初めて会ったのは、カンヌででしょうか?
仙頭:カンヌですね。
千葉:その時の、この鬼の今平っていう監督について、どうでしょうか?
仙頭:(笑)ええと、多分途中から来られてて、それで知らないうちに帰られたんですよね。姿をお見かけしたのは、パーティーの時と、実はその前にカメラドールって私が審査の対象になっていたその事務局があって、その横にぽつんと立ってらっしゃったんですよ。何か一人で。それを見かけて、あっ、日本人がいる、とかって言う(笑)。日本人のおじいさんがいる(笑)、って感じで見てたら「お前何言ってんや、あれ今村さんやぞ」とかっていう風に、スタッフ達に言われて、あっ、そうだったんだ、と思ってパーティーで、「あの、私…」、当時、かわ、かわ、かわせ…
千葉:河瀬さん、はい。
仙頭:(笑)で、「河瀬と申しまして」とか言って、「日本から作品を持って来てるんですが…、「あっ、そう」(千葉・笑)みたいな感じで(笑)、カンヌではもう全然…
千葉:そこまでのお話だったんですか?
仙頭:ええ、そうでした。
千葉:ああ、そうですか。
仙頭:はい。
千葉:今村監督は帰って来られて、河瀬直美って監督について武重さんなんかには、奇麗な女の人に会ったよって報告されたそうですね。奇麗な女の人と言う意味というのは、何か特別、どうもありそうなんですけど、監督どうですか?
今村:特別何とかってことはないね。しかし何とくなくそういう風に言いたくなるような人だね。
千葉:じゃあこの次、女優として使いたくなるかも分かんないですね。
今村:そりゃ、無理でしょう。
千葉:アハハハ、そうですか。
「いやいや、良く当たってますわ、この娘(こ)の言ってることは」(今村監督)
千葉:まあ、こういう関係がカンヌでお会いになって、今日このしんゆりでこうしてお時間取って頂きましたから、仙頭さんに、監督に色々今迄こう思ってたこと、今日観てご覧になった映画とか、何か是非お話し下さい。
仙頭:さっきのフイルムを切るのが出血多量になる、みたいなお話を聞いてて、今日の〈『カンゾー先生』〉を観てですけど、彼女〈麻生久美子〉のシーンでどうしても残したかった所なんかが、すっごくあったんじゃないかな、その部分で出血しそうになってたんじゃないかなってすごく思ったんですよ。で、女の方、すごい好きですよね。
今村:はい。 (場内笑)
仙頭:(笑)彼女も、私、すっごい魅力的だと思ったし、あの日に焼けた、何か肌がもうすごい触れるだけで、もう何かあの、イッてしまったりとかしそうなんじゃないんですか。もう監督なんかにしたら、イッてしまうって言うか(笑)、もう触れるだけでいいっていう感じ(笑)。本当にすごく思い入れが多分あられるのに、カンゾー先生が走るシーンは、やっぱり極力その部分で残したんじゃないかっていう風に思うぐらい、やっぱりお父さんのこと、もしくは御自身の中にある父像っていうか、その部分を大変、こう…
今村:残した。
仙頭:残し、あの大好きな女より、実はやっぱり人間、自分の、何て言うのかな、自分の存在の原点みたいな所の部分をやっぱり残される作品。性と言うか何かその辺がすごく、今話しも聞いてて感じたんですけどね。
千葉:どうですか、監督。今のお話しで、どこをポイントに切ってったと…
今村:いやいや、良く当たってますわ、この娘(こ)の言ってることは。
千葉:ああ。
仙頭:そうですか、…(一人ごちるように)この娘、この娘? (笑)
(場内笑)
今村:ええ、あんまりね、無理無残に切ることはしたくなかったけどね。でもいくらか、切りました。彼女の所、あなたの所。
麻生:はい。
今村:なくなったと思った?
麻生:(笑)多少は…でも、そんなに…
今村:そんなに、〈カットし〉なかったろ、うん。
麻生:なくならなかった、と…
今村:ええ、奇跡的なんですよね。登場人物の中で「あれ?」って言う声がだいぶ上がったらしいんですがね。唐十郎さんなんかも、だいぶ切られちゃったんですね。まあ余計な芝居も相当してたけどね(場内笑)。そういうのは全部摘まんで取ってしまいましたけどね。だからせっかくの活躍が、それほどではないって言う風になると思います。その辺のことは、つまりそのぐらいのクラスの俳優達っていうものは、かなり摘まんだらしい、と思いますかね。
千葉:脇の俳優さん達のお芝居の部分を相当切っていると、
仙頭:ああ
千葉:…そういお話しだと思いますね。
役所広司さんのファンになってしまって…「い、い、一緒に写真撮って下さい」(仙頭監督)
仙頭:私、カンヌで、メイン会場、さっき言われてたがあーって4000人入る会場で観たんですよ。メイン上映っていうのがあって、夜に上映するのがメインなんですね、カンヌでは。正装して行かなきゃいけない、赤じゅうたん登る分なんですけど。実は午前中にも上映はされるんですよ。私、その午前中に行って、夜はもうなんか皆いっぱいいるんで、正装しなきゃいけないし、で、朝行ったんですよ。だからわりと前の方の席で、すごい贅沢に。やっぱりカンヌってすごい人がいっぱい集まるし、日本に入ってくる〈カンヌ国際映画祭の〉映像で見られてるように、あーいう、何て言うの、海辺でバァーって、すごいイイ感じなんですけど、一番やっぱりすごいのは、映画の観る環境を、素晴らしくしてるって言うか、音にしても、スクリーンにしても、ものすごく観やすい。で、4000人も入るような、こんなに高低差のあるような所で、私、一番上でも観たことあるんですけど、そこで観てても、スクリーンがなんか目の前にあるみたいに、感じれるような会場で。観た時に、私あんまり映画って普段観ないし、普段観ないって言うか観れる時間があんまりなかったりするんですけど、作るっていう方が多くてテレビも観ないから、役者さんをほとんど知らなかったんですよ。役所広司さんをね。あん中に出て来る役者さんが、もうすっごいカッコ良く見えたし、その人間を好きになって、役と本人は違うのに役者さんも来られてたから、もうすごいファン状態になってしまって(笑)。夜のパーティーとか「い、い、一緒に写真撮ってください」とかって言って、カンヌの海で写真とか撮ってもらったりしてたんですけど。
千葉:『うなぎ』の時の感動が引きずられていって…
仙頭:ええ、そうですね。
千葉:今回の『カンゾー先生』、あなたが観てて、この大先輩の作品の中でここはやっぱりすごいと思った(こと)何かありますか?
仙頭:うーん
千葉:いっぱいあると思いますけど、特にあなたの目から観るとソノコとか、色々あるんでしょうか?
仙頭:あの、学会ですよね、学会で発表する所…
千葉:はい、はい、はい…
仙頭:ええ、あれは…
千葉:あれは素晴らしい?
仙頭:…あの、笑い泣きしちゃいましたね。すごくね、クサくなるシーンだと思うんですよ。それが彼の町医者であろうとしているところがいきなり舞台に上げられて、何かこう本当にその町に住んでいる、痛い痛いって言ってる人に肌に触るのとは全然別の世界に持ち上げられた時の昂ぶりっていうのと戦うような、その、なんか人間性の部分をあの何分間かのシーンで一気に盛り上げていくっていうようなところが、「ここは拍手を送ります」とかって、ぶわーって私も拍手しそうになるっていうような臨場感がね…
千葉:ああ、そうね
仙頭:やっぱりあれだけの人々が、俳優さんが、1台1台かなカメラ。まあ何台かある中ででも演技をするっていうのを総括しなきゃいけない監督の立場。それを出来るっていうのは、まだ多分私の力では、「この娘(こ)」って言われるように(笑)…
千葉:難しい?
仙頭:難しいのかもしれない、と思うんで、その辺はやはり見習うべき所だなって。
千葉:ああ、そうですか。でも素晴らしい場所をやっぱり観てらっしゃるね。
白鳥:そうなのね。やはり監督らしい見方ですね。
千葉:監督がやっぱり一番難しいトコ、あーいう所だと思いますよね。
柄本明さんの演技 「お芝居臭い部分をやって見せたわけだな僕に」(今村監督)
白鳥:ちょっと柄本(明)さんについて、監督にお尋ねしたいんだけど…。柄本さんも、今日本当はこの会場に来たいっておっしゃてたんですけど、今本多劇場でお芝居をしてらして、そのお芝居の本番の日なんでいかんせん抜けられないので、「監督と麻生さんによろしく」ということでした。で、今河瀬(仙頭)さんがおっしゃったんだけど、全然クサみのない演技?
演技芝居っぽくない演技? それは、私今度の『カンゾー先生』で、感じたんですよね。で、その辺はどうだったんですか?今村さん。
今村:今の本番は割合オーバーにやってますね。つまりお芝居臭いんですよ。お芝居臭い部分をやって見せたわけだな僕に。それでどうしようかって言うんでね、これは芝居臭いんじゃないか少しっていう風に自分自身でもそう言うんですよ。それでね、スクリプターにどうだいって聞いたら、ええ、これじゃない方のが良かったんじゃないかって言うのね。
白鳥:ナカタ…
今村:うん、ナカタヒデト。
白鳥:ヒデトさんがそう言ったんですね。
今村:これか、これじゃないのがいいって言うんですね。だから4か5がいいって言うんですね。ええ、4か3がいいか・・・色々、まあ色々って言うか少し迷ったんですけども、これでいいんだと、今回はこれが良いという風に言ってですね、OKは一番芝居臭いのを選んだ。選んだんですけどもね、芝居臭いってのいうは、その短い時間の間にね、短兵急にこう盛り上げなきゃならない、という枷を背負ってますね。要するに、それを背負って色んな想いを持ちながら、クニへ帰って行くっていう所がありますね。そのために、OKの5をOKしました。そういうことがありますんでね、芝居臭くないのが一番いい、ということにだけはならないんですね。ものすごく芝居臭いのをわざと撮ると言う時もあるわけですね。
“掘る”「どうしてもちゃんと掘りたかった」
千葉:私はあのシーンやっぱり感動して、今村監督のお父さんに対する賛辞と言うか、お父さんをどこかでやっぱり誉めてあげたかった監督の気持ち、そんなのがあの中にダブって私には見えましたね。実際には監督とお父さんってのは、面と向かって会いたくない存在だって言ったんですけど、私はあの中にお父さんを見ますね、やっぱり。それから私は、お墓〈を〉掘る、あそこの、“掘る”っていう仕事、『果てしなき欲望』の時も“掘る”っていう話し出るでしょう。いつも、いつも、掘るんですよね。この今村監督の映画の中に“掘る”ってのは何か意味がありそうで、監督あそこの“掘る”ってのにこだわってたんじゃないでしょうか?
今村:こだわりましたよ。どうしてもちゃんと掘りたかった。だから、その死体をね、埋葬した死体をまた掘り出すなんていうのは、そこの寺の住職がいながらですね、あえてそうするということに相当抵抗がありましたよ。うん、マズイなっていうような感じもしましたけどね。まあ、島の、孤島みたいな所ですから、この島にあるそのお寺であり、墓でありますから、ま、いいやと。
千葉:なるほど
白鳥:あの『果てしなき欲望』の時はセットを掘っていましたね。
今村:そう、そう。
千葉:うん、そういう、あの…
白鳥:掘るシーン…
千葉:撮る為に、その…
白鳥:カメラも穴の中に入はらなきゃなんないんで…
千葉:…中に入れて、セットか…
白鳥:…先ず一日の仕事の始まりは、セットを掘る所から始まってたんですね、あの時は。
千葉:佐藤忠男さんが書いた『今村昌平の世界』ってのがあるんですね、ここに。これを見るとね、いつも掘るっていう、その作業というか映像が出てくる。これは日本人っていう根っこを掘りたいって監督は思ってるんだと、だから何かここにシンボルみたいなものがきっとあるんだろう、という風に書いてるんですけど、まあ、何かそういう部分もあの中に感じたという気がします。
白鳥:すごい佐藤さんらしい…
千葉:そう、そういう分析もありましたね。
白鳥:その辺はいかがなんですか?根っこを…
今村:うーん、ちょっと思い過ぎだな、それは。
白鳥:そうですか。(笑)
千葉:時間がそろそろ来ましたから、未来という所だけちょっとお話し頂いて終わりにしたいんですけど、今村監督、仙頭監督、そして麻生さんにも聞きたいと思いますが、未来に向かって新しく取り組んでいるという作品の話をちょっとして下さい。
白鳥:えっ、どちらから?
千葉:あっ、今村監督から
白鳥:これから
千葉:まだ、内緒…
今村:いや、今ねシナリオにかかってるけどね。
千葉:ええ
今村:かかってるけども、今んところ、言いにくいですね。
千葉:言いにくですね、はい。企業秘密ってこともあるんですね。
今村:そうですね。
千葉:私はこの今村監督というのは、病院で喩えるとほら、産婦人科専門にやって来たりなんかするわけですね。小児科に取り組んだり、精神科に取り組んだり、『カンゾー先生』は内科かなと、私、思ってるんですけど、きっとこの次また、独特の世界を創り出すのかなと思って大変期待しておりますが、仙頭さんは、今…
仙頭:ええと、自分は春、来年の春からインの予定で、『ほたる』って題して、まあ虫の蛍とかも引っかけてるんですが、人間の恋愛の映画を脚本中です。
千葉:そうですか。舞台は奈良でしょうか?
仙頭:ええ、奈良なんです。
千葉:やっぱり奈良というのは非常に魅力ありますね。
仙頭:そう、自分にとってはね、やっぱり生まれ育って過ごしてきた土地なんで。
千葉:麻生さんは今なにか新しく…
麻生:はい、もう撮り終わったんですけど、黒沢清監督の『人間合格』と言う作品に出させて頂いてお正月から公開です。それを、よろしくお願いします。
千葉:そうですね。白鳥さんも新しく色々仕事してますね。
白鳥:ええ、私は今のところ自分の家が柿生なもんですから、しんゆり映画祭に骨を埋めようと思っております。
千葉:こういう方がいて、しんゆり映画祭も盛り上がると、こういうことであります。皆さん本当にお時間を頂いてありがとうございました。どうぞこれからもお体に気を付けて素晴らしい作品をどんどん作って頂きたいと思います。本日はありがとうございました。
白鳥:ありがとうございました。