韓国映画っていえば、『猟奇的な彼女』とか『殺人の追憶』なんて、すっごく面白かったね、オレは。特に『殺人の追憶』なんて、ここ数年で一番といっていいくらいよかったね。参ったね、降参だね。国をあげて映画を盛り上げてる感じがして、うらやましいことこの上ないね。サムソンは、ガンガン伸びてるし、日本に追いつけ追い越せって急成長。国際経済にうまく乗って、インターネット大繁盛。経済大国の称号も、もう目前だ。やったね韓国!憧れだね、韓国人になりたいね。コリアン最高!ヤキニク万歳!って感じだね。
てなイメージで、初体験した韓国。溢れるハングル文字。そりゃそうだ。けどこの世の文字とは思えない。アラビア文字かハングルかっつうカンジ。看板くらい、英語と両表記位しといてくれよ、何売ってる店だか全然わかりませんよ。ITでしょ?グローバルでしょ?サムソン、頼むよ。
ホテル到着。早速、佐藤監督から、酒かって来いとのご命令。酒を売っている店をたずねるためにフロントの若いカワイイ女性にカタコトの英語で話しかける。ニコニコしてる。おお、いい感じ。でも、通じてないみたいだ。こっちもカタコトだ、しょうがない。で、も一回、手振りも入れてみた。ニコニコしてる。すんごい笑顔だ。かわいいなあ。でも答えてくれよ、店を教えてくれよ、コリアンガール。おっかない先輩がオレの帰りを待ってるんだよ、ハニー。そこへ、奥からマネージャーらしき人が出てきた。同じことを繰り返す。すぐ酒を売っているコンビニを教えてくれた。そうか、ハニーは英語ができないのだね。いいよ、かわいいから。でも、わからないときは、わかる人に聞こうね、ハニー。
部屋で、佐藤監督の熱弁を拝聴していると、橋本監督から、ここのパソコンは立ち上がらないからちょっとみてくれと言われた。韓国は、IT先進国。各部屋に無料でインターネットができるパソコンが設備されている。さすがだ。けど、つながらない。
ボーイを電話で呼ぶ。見るからにシャイで好青年。礼儀正しく、これまたニコニコしている。オレ好きだね、こういう青年は。システムが壊れているようだけどと言ってみるが、大丈夫と笑顔で答える。と言っているようにしか聞こえない。お互いカタコトだ。きっと大丈夫と言っているようだから大丈夫なんだ。人は見た目によらないね。頼もしいね。
パソコンを再起動し、しばらく好青年は真剣なまなざしでパソコンとにらめっこ。ふと振り返ったね彼は。笑顔で、「システムエラーです」。いいんだよ、わかってるよ。わかっていることは笑顔じゃなくていいんだよ。明日、わかる人が来るから直しますってさ、心配するなってさ、キミは、わかる人だからきたのではないのか?
よし、そういうこともある、しょうがいない。英語カタコトのオレだって気を取り直すくらいできるんだ。キミはパソコンがカタコトなんだね。心配なんかしてないよ。明日は頼んだよ好青年。キミらは徹夜で働いてんだ、朝、モーニングを死ぬほど待たせたって、こっちは一字の文句もないってもんさ。
翌日は、韓国の偉い人たちと話して、食事して、また偉い人にあって食事して。食事は、おいしいね。最高だね。韓国好きになりそうだね。偉い人たちには、カタコトの英語も通じたしね。向こうの人の英語はさっぱりわからなかったけど、きっといい人だ韓国の人は。オレの顔見て笑っている気がするけど、それは、オレの性格だ。そんなはずはない。
夜、気分良くホテルに帰ってくる。やっぱりパソコンはつながらない。予想通りでしょ。こういうときの意外性はないね、韓国には。もう一回、フロントに事情を説明する。再び、好青年登場だ。キミは一体何時間働いているんだ?お母さんが、体を心配しているに違いない。でもね、キミはパソコンカタコトなんだ。
大丈夫?今日、わかる人は見てくれましたか?と尋ねる。いいね、笑顔がいいね。でも答えてくれよ、好青年。オレの英語が通じないのか?それともキミの英語は、オレより数段カタコトなのか?もういいんだ真剣なまなざしは。メインユーザーでログインして、設定から見ないとダメでしょうと、カタコト言ってみる。大丈夫だと笑顔で答えてくれる。おお、見事な愛想返事だね。だって、通じてないのが、オレにだってわかる。こっちは、わからない単語を身振りで話す日本語だって、アメリカ人のごときイントネーションとオーバーアクションで頑張ってんだ。イラク派兵反対!キミの思想は充分に理解できるよ。だけど、それとこれとは話が別だ。キミがアメリカ人が嫌いで耳をふさいでいるのかもしれない。なら、せめて、ちょっと通じる人連れておいでよ。
何度か、リセットボタンを押して再起動を繰り返す。彼は、言ったね。予想通りだ。「ボクにはログインできません」 裏切らないね、好青年は。こっちの期待をちゃんと知っている。そうだよ、パソコンってそういうもんだ。パスワードとかIDとかイロイロ面倒くさいよ。でも仕方ないんだ、好青年。いくら従業員といえど、それがわからねばパソコンは直せない。社会の矛盾を受け入れなければ世の中生きていけないんだ。
好青年は、本当にすまなさそうな顔をして、部屋を後にした。さようなら、そしてありがとう、好青年。キミは、働きすぎだ。ぼくらが到着してから、ずっとこのホテルにいるんだ、何ができなくたって誰も文句なんか言わないよ。キミは、労働基準法違反の好青年。ゆっくり家で休んでくれ。
今度会う時は、ハングルカタコトになって、帰ってくるよ。アイルビーバックだ。このくらいハングルで言えるくらいにね。